ニュースまとめ・経済ニュースまとめ「世界情勢の分析と未来予測」

日本の金融機関は高リスクの海外投融資へ傾斜     日銀の金融システムレポートより

日本の金融機関は高リスクの海外投融資へ傾斜            日銀の金融システムレポートより

4月20日に日銀が金融システムレポートを発表しました。半年に一回出されるレポートですが、日経新聞でも報道されていましたが、低金利にあえぐ日本の金融機関の海外依存度の高まりが報告されています。新型コロナウイルスの感染拡大による各国政府の財政支援がもしも、バブルを生みだしているとすると、海外のリスクは日本のリスクでもあるので、レポートの気になるところを見てみました。

序文の中で特に気になったのが以下の文章のなので、抜粋します。


金融市場の大幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化である。わが国の金融機関は、国内の低金利環境が長期化するもとで、高めのリターンを求めて、内外クレジット商品や投資信託などへの投資を積極化してきた。こうしたなか、グローバルな金融システムでは、投資ファンドなど、ノンバンクが金融仲介活動に占めるプレゼンスが高まっている。有価証券投資を介した国際的なネットワークの構造変化を分析したところ、海外投資ファンドの売買行動が、わが国金融機関の保有有価証券の価格に及ぼす影響が近年拡大しているとみられることがわかった。この結果は、内外金融システムの連環性が高まり、わが国金融機関がストレス時に直面するリスクが海外ノンバンクの行動によって増幅される効果が高まっていることを示唆している。(日本銀行:金融システムレポート)


このように、海外での投資活動に懸念を表しています。さらにレポートの中では気になる点がいくつかありますので、以下に見ていきます。

【プロジェクトファイナンス向け貸出】


邦銀は、2000年代の後半からプロジェクトファイナンス向け貸出を拡大してきた。特にリーマンショック後、欧米の金融機関が同ビジネスを縮小する中でも積極的に残高を増やし、足もとでは、邦銀が主幹事となって組成している案件は全体の2割程度を占めている。邦銀組成案件の業種構成をみると、その他の案件と同様に電力、インフラ、石油・ガスが大半を占めるが、相対的に石油・ガスの割合が大きく、インフラの割合が小さい。(日本銀行:金融システムレポート)


この中で気にかかるのは、リーマンショック後、欧米の金融機関は手を引いているビジネスを拡大しているという点です。そして、プロジェクトファイナンスの案件の中身ですが、邦銀はインフラの割合が低く、石油・ガス等の割合が高いとされています。

石油・ガス等のプロジェクトファイナンスのデフォルト率は全業種平均よりも高く、そしてインフラに比べるとさらにデフォルト率は高くなります。つまり、ババ(デフォルト率の高いファイナンス)を引かされている可能性が高いわけです。

長く続き低金利故に投資先がない、それが欧米が手を引く案件に手を出している要因の一つでしょう。しかし、それだけではなく、デフォルト率の高いものばかりを負わされている面もあるのではないでしょうか。

また、この石油・ガス系のプロジェクトファイナンスが多いのは他にも問題があります。それは、脱炭素社会へ世界各国が舵を切り始めたということです。

原油需要が将来的に大幅に減少する可能性も指摘されています。これは原油価格の下落を意味し、下落した原油価格がプロジェクトファイナンスのデフォルト率と回収率に悪影響を与えることも容易に予測できます。

今後、原油価格の需要、価格推移によっては、デフォルト率の上昇はあり得ることであり、懸念材料です。

 【航空機関連向き貸出】

邦銀にも多くみられるのが航空機関連への貸出です。世界の航空旅客需要は、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大によって激減しました。2019年の水準まで回復するのは2024年頃になるとの見方があります。それとて、確実ではなく、戻らないかもしれません。

現状、世界的に感染は再拡大しており、第4派と言われておりますが、もしかしたら変異種の第1派であるかもしれず、まだまだコロナの影響からの需要減は元には戻らないと思われます。航空関連向き貸出が多いことも懸念材料です。

【有価証券投資にかかるリスク<円金利リスク>】

金融機関の円債投資にかかる金利リスク量は、2002年度以降のピーク水準に増えているようです。財政支出の拡大等を背景とする預金流入の拡大の影響もあって、いずれの業態でも投資残高が増加していることがリスク量の増加を後押ししています。

問題はそのリスク量です。リスク量の対自己資本比率を業態別にみると、大手行が10%程度、地域銀行が20%程度、信用金庫が30%程度まで高まってきており、特に地域銀行や信用金庫では、金融機関間のばらつきも拡大しています。

信用金庫は自己資本の実に30%にも相当する資産が円債投資のリスク資産ということです。万が一、債権のデフォルトが起きた場合に、自己資本が棄損されることを思うと、今後注視していく必要がありそうです。

【市場性ショックのグローバルな波及経路の変化がわが国金融機関の市場リスクに与える影響】


わが国の金融機関は、低金利環境が長期化するもとで、収益確保の観点から、海外クレジット商品や投資信託などを中心にリステイクを積極化してきていた。

一方で、海外投資ファンドも近年、わが国への投資を増加させている。この結果、わが国と海外の金融システムが連環性を強め、市場性ショックのグローバルな波及経路に構造変化が生じ、わが国の個々の金融機関が直面している市場リスクが海外投資ファンドなどの取引行動によって増幅される度合いが高まっているとみられる。(日本銀行:金融システムレポート)


この問題も長引く低金利の問題が大きく影響しています。低金利環境の長期化で貸出し利ざやが縮小、結果として海外への投融資を収益の柱としている邦銀は多くなっています。

3月に起きたアルケゴス・キャピタル・マネジメントを巡る損失は、野村ホールディングス、三菱UFJ証券ホールディングス等日本の金融機関にも大きな打撃を与えました。これは、日本の金融機関が海外との顧客取引を拡大する中で起きたことであり、今後も起こらないとは限りません。これらは、海外へ収益を求めている日本の金融機関の宿命にもなってきています。

現在がコロナウイルスがもたらした過剰流動性とも言えそうな金融緩和がもたらしたバブルであり、それがはじけたらと考えると、その損失を日本の金融機関が被る可能性は十二分にあります。

低金利がもたらす日本の金融機関の収益環境の悪化による海外投資、それは、もしも今がバブルであった場合には、そのバブル崩壊とともに、日本の金融機関を追い詰めることになりかねません。

金利はまだまだ「正常」といえる領域には入りそうもありません。しかし、この超低金利が続く限り、この海外へ収益を求めるリスクの構図は変わらない。

日本は新たな成長戦略を描き、金融機関はそれを支える構図を作らない限り、低収益にあえぐ金融機関はリスクを取り続けるしかありません。その成長戦略はまだまだ見えてきません。アフターコロナは、もう元の世界ではないことを前提に、政府も企業も考えていかなければ、世界的なバブル崩壊に巻き込まれてしまうのではないでしょうか。

関連記事