【中国経済】
2021年第1四半期中国経済急回復は本当?中国はこのまま発展し続けるのか?
1.GDPを比較してみる
2.PMIの検証
3.中国は人口が減少する国となる
1.GDPを比較してみる
中国国家統計局が4月16日に2021年1~3月の実質国内総生産(実質GDP)を前年同期比18.3%増として発表しました。新型コロナウイルスのまん延でマイナス成長となった前年の反動で、四半期の成長率として記録がある1992年以降で最大の伸びとなりました。
マスコミでは中国の景気回復が喧伝されていますが、注意が必要なのが、上記のグラフは前年同期比での成長率であるということです。
しかし、日米欧が重視するのは季節調整済み前期比です。以下に前期比の年率換算グラフを示します。
2021年1~3月期は前年同期比では18.3%増ですが、前期比では実は0.6%伸びで、年率換算でも2.4%増です。日米欧は前期比の年率換算で成長率を見ていますが、中国は前年同期比での伸び率を見るために、大きく成長しているように見えます。
しかし、日米欧と同じように前期比の年率換算で見ると、2020年の9~12月期の成長率からは鈍化しています。
なぜ、中国の景気が大幅に回復しているとマスコミは報道するのか。もちろん、前年と比較すると、回復しており、日米欧よりも回復が早いかもしれません。ただ、現実を見ると、成長率は鈍化しています。そのギャップが生じている一つが中国の報道をそのまま見ているというのがあるのかもしれません。
中国国家統計局の発表のタイトル(英語版)は「National Economy Made a Good Start in the First Quarter(第1四半期の国家経済は好調なスタートを切った)」です。
中国国家統計局の発表には「上昇した」という点が特に強調されており、前期比の内容はわずかです。
つまり、2020年の第1四半期の落ち込みが激しかったために、2021年の第1四半期が急上昇するのはある意味当然です。しかし、前期比で比べると、急回復した後に、成長率は鈍化しているのが実態ということです。
2.PMIの検証
PMIとは製造業やサービス業の購買担当を調査対象にした、企業の景況感を示す景気指標の一つで、Purchasing Manager’s Indexの略です。企業の購買担当者に、生産や新規受注、受注残、雇用、価格、購買数量などをアンケート調査し、結果に一定のウエートを掛けて指数化したものです。
中でも製造業の購買担当者は、製品の需要動向や取引先の動向などを見極めて仕入を行うため、製造業PMIは今後の景気動向を占う「先行指標」とされています。
(出典:TRADING ECONOMICS)
これから見えてくるのは、製造業は思ったほどに回復していない、中国は非製造業の方が順調であるということです。製造業が支えてきた経済ですが、非製造業が支える経済に変わろうとしているのかもしれません。
ここから見えてくるのは製造業の今後に注目しておく必要があるということです。中国の国家経済をけん引してきた製造業の今後がどうなるのかは重要です。
3.中国は人口が減少する国となる
中国の出生数は2020年、対前年比で一気に15%近く減少したことが明らかになりました。コロナ禍が原因であることは確かですが、武漢で爆発的な感染が発生したのが2020年1月下旬以降です。その時からは病院へ行くことへの不安感から出産をためらう気分が広がりました。
しかし、感染急拡大の時点で、同年の出生数の大半は既に妊娠していたと考えられ、その後の出産断念が一定数あったとしても、コロナ禍がそこまで大きく影響したとは思えないという見方もあります。いずれにせよ、前年比15%減は中国という国の将来を左右するほどの衝撃的な減少率です。
中国は1980年頃から一人っ子政策を実施し、人口を抑制してきました。2016年には2人目の出産を認めましたが、働き手は既に減少しており、高齢化のペースも早いのが現状です。
年間出生数は1987年の2508年をピークに減少が始まり、2010年には1588万人まで減少しました。この頃になると、若年労働力の不足が顕在化し、このままでは人口構成がますます歪み、社会の高齢化に耐えられないとの危惧が高まりました。
そのため2013年からは、両親のどちらかが一人っ子であれば2人までの出産を認める政策に転換、さらに2015年にはすべての夫婦が2人までの出産を認めることが決定され、一人っ子政策の事実上の廃止となりました。
2016年の出生数は1786万人とやや増加しましたが、17年からは再び減少し、17年1723万人、18年1523万人、19年1465万人(国家統計局発表)と減少傾向に歯止めはかかっていません。
習近平指導部は出生数の減少に危機感を強めています。急激な少子高齢化で現役世代にのしかかる社会保障費が増大するからです。国連の予測では、65歳以上の人口比率は2040年に米国を抜き、2060年には30%に達し、ドイツに並ぶとされています。
そして、人口そのものの減少が加速すれば、米国と争う経済やハイテク覇権争いにも影響します。
中国の急速な経済成長はある種の奇跡と言えるのでしょうが、そのからくりは人口の強引な抑制策でもありました。少生快富(少なく生んで早く豊かになる)を実現しようと突っ走ってきたのが中国という国です。
今、その反動が出始めたのが今の中国です。確かにパンデミックからの経済の回復は日米欧よりも早いかもしれません。しかし、今回見たように、報道されているほどの成長をしているわけではなさそうです。
それよりも、今後の中国を見ていく上では、目の前の経済状況だけではなく、長期的な人口動態、出生数を見て予測をしなければならないのではないでしょうか。
急激な人口減少を見る限り、中国がこの先もかつてのペースで経済成長をすることは困難であり、世界の工場の位置づけも変化していくことでしょう。